雑誌「彗星のヴィジョン」雑誌「彗星のヴィジョン」

詩画集 パラッ・サ パ・ラッサ

1
小さな小さな窓から
大きな大きな銀の満月を見上げていると
地球はまわっているんだねと
肋骨の間の三角水晶が白い息をもらします

小さな小さな窓からの
大きな大きな銀の月の光がいつもよりまぶしいのは
今夜
カエルではなく
スズムシがないているからでしょうか

生きびとたちもないていますか?

今宵も
一度きりの美しい夜空です
流れ星を
ひとつ
ふたつ
古いアラビア製貝細工宝石箱に閉じこめておきましょう
懐中時計はありますでしょうか

「だれと旅をするか? ということだね」
流れ星が
ささやきました

子どもたちの夢の場所はまだ見つからないのです

ですが
そこへ辿りつくための道案内の地図となる
秘密の詩のことばは
一度きりの美しい夜空から
今日も届いているのです

romanorum

2
切り裂かれたような半月が輝く夜は
星々の悲しみも深くなります

引き千切られたような半月
星たちは
これでもかと
命を燃やしながらまわります

死にびとたちは
いつでも
優しいのですね

東の低い空の半月を
すぐとなりの左に傾いたオリオンをはじめとした星座たちがとりかこんでいます
数学的に完璧な星たちの配置
こんな美しい夜空を見るのは
こんなに音楽的な星空を見るのは
はじめてのことかもしれないのです
それとも
数十億年ぶりでしょうか?

宇宙は
数字と音楽でできた
たったひとつきりの
命のゼンマイ仕掛けの懐中時計です

「引き継げるのは、誰かがみた〈夢〉だけなんだよ」
オリオンのベテルギウスは
青くささやきます

もうすぐベテルギウスは
優しい
死にびととなります

命のゼンマイ仕掛けの懐中時計は
だれかが見た「夢」のなかで
パラッ
パラッ
パラッと
小さな音楽を奏でつづけています
太古の昔から
人間が見あげてきた
オリオンが消えてしまっても

romanorum

3
月の光を浴びてきましょう
木星を意識しながら
耳を澄ましながら
どこにいても地球に垂直なカラダを澄ましながら

声には
音楽のすべてがあります
太古からの音楽が

月の声も
木星の声も
ちょっと意地悪なあなたの声も

死にびとたちに
優しい時間と
新しい星座を
つくりましょう
木星の音楽がよく輝くように

森へ出かけてきます
死にびとたちのハンモックを
オレンジ色のゆりかごを
月の光でつくるために

今日もまた
女流詩人と
時の声の秘密にまつわる
ふたつの台本を
一緒にすすめているのです

romanorum

4
雨ですね
冷たさが
かたいですね
おそらく
雪が近いのですね

雨ですね
おそらくこの雨は
自分のことを雨だとは思っていないのでしょうね

六角板氷晶が雲のなかにあらわれ
地上に銀の子を産み落とし
重力を失った満月に
逆さの虹がかかる
環天頂アーク
月は遠くへ
遠くへ

月を凍らせ
星たちのおしゃべりはつづきます

パラッ
パラッ
パラッ

romanorum

5
再生は星たちの秘めごと
星たちのポリフォニーはそれだけを歌っています

星の河はひとつではなく
無限に存在し
時間と空間を編みこみながら
永遠の交わりをやめることはありません

それは
砂のなかでの水の戯れのように
それは
水の中での砂のダンスのように
それは
迷宮のなかでの闇の呼び声のように

死にびとと生きびとの地層ですか?
それとも
神々の混交でしょうか?

無限の星の河は
どこへ流れこみますか?
ひとつの無限の海ですか?
その海でニンフたちは砂漠の歌をうたっているでしょうか?
星たちの再生の歌を

時とは廃墟へつながる砂漠のことをいいますか?
言葉とは死のことをいいますか?

すべての風景は光学的な幻像なのでしょうか?
脳味噌に宇宙の根源がありますか?
脳味噌は海ですか?
それとも砂漠?
あるいは鏡

無限?
限り―言葉―無限―言葉―限りー言葉―無限

夢のバトンは再生ですか?
死を通過したのですね

romanorum

6
月ノナイ
今夜ノ空ハ
星デ イッパイデス
誰カガ
夜空デ笑ッテイルノデショウカ

月を凍らせ 星たちのおしゃべりはつづきます

まさか
月も
突然の霧に声を奪われるとは
思ってもいなかったでしょうね

死にびとと生きびとのうしなわれたオリオン
旅びとの詩にトリ女と牡うし

romanorum

7
宇宙は視覚でなりたってはいません
数字と音楽
そこで視覚は存在したことはありません
だから
生きびとも死にびとも宇宙の地図を描くことに夢中になります

ふたりの詩人の対話は永遠につづきます

心臓のない詩人 「パラッ、パラッ」
足から腐っていく詩人 「ラッサ、ラッサ」

ふたりの盲目の詩人が見ていたひとつきりでありながらいくつでもありつづける湖について

心臓のない詩人 「パラッ、パラッ」
足から腐っていく詩人 「ラッサ、ラッサ」

ふたりの聾唖の詩人がきいたひとつきりでありながらいくつでもありつづける産声について

全天方位をかけめぐる彗星
静けさと冷たさと沈黙を要求する彗星
それを線で追う生きびとと死にびと

七つの星を
七つの色を
消し去る
銀色のポリフォニー

romanorum

8
北斗七星だけの夜空

昨日の夜空は
月光に支配されていたね

スケッチブックは
行方不明のままです
あるのは
色のたりないクレヨンです

ひとり森のなか深く

なくしてしまったクレヨンは
何色だったのでしょう

森のなかの光の速度と
雪の舞い落ちる速度と
地球のまわる速度と
アゲハの羽ばたきの速度と

みんなまとめて
うしろの正面だあれ?

ななつぼしかたむいて あなたのヘンな声

パラッサ
パラッサ

romanorum

9
遠い昔へとすぎさってしまった午前1時の東の空
遠い昔へとすぎさってしまった季節のうつりゆきで
西の空が
東へまたもどってきましたら
冷たい空に
星のまばたきは切なくはげしいです

「あっ、流星群を見なきゃ」
そうささやいたのは
私でしょうか
それとも
あなただったでしょうか

満月は
天空の穴のように遠く小さく
星たちは飛び散り
星座することをやめました

薄い宇宙の夜です

romanorum

10
白い雲の合間の黒
それは大きな龍の眼窩のあたり
そこにひとつだけ星が流れます
まるで龍の眼球のように
あるいは涙のように
それを拾ったペルセウス流星群の夜
それ以来ときどき
小さな小さな窓に星が流れます
人生はフゥなのかもしれません

11
たくさんの小さな声をつつみこみながら
雪は降ることをやめました
少しあたたかくなったでしょうか

グググッ クック
グググッ、クック
パラッサ パラッサ
新雪を歩きます

グググッ クック
グググッ、クック
パラッサ パラッサ
新雪を歩きます

「金星が見ごろでしょうね」
白いバラのつぼみが
雪のなかでささやきます

雪は悲しみに似ていますか?
雪は希望に似ていますか?

月がはらみながら
しずんでゆくのをご覧ください

romanorum

12
この星に
月によって生みおとされた銀の子どもたち
やがて そのことを彼らも忘れます

死にびとを忘れるように

13
顔を半分近く奪われた月が
だれかに話しかけています
「顔を隠しているのには、理由があるんだよ。君たちと同じようにね」

星たちは
子どもたちが眠る屋根の上で
何かさかんにつぶやいています
その声は
目ざめている者にきこえるものではありません
けっしてきこえるものではありません
銀の子どもであることを忘れてしまった子どもたちにも

ラララ、ラッサ
ラララ、ラッサ

希望を探す道は
人の数だけあるようです

半月が笑う今宵

薄目をあけた半月が
星からはなれて
ニセモノの孤独者をさがしています

きこえてくるのは
ラララ、ラッサ
ラララ、ラッサ

romanorum

14
流星「だれか、僕を止めてくれないかしら」

白いバラ「だれか、私をどこかへ連れて行ってはくれないかしら」

ふたりが出会うことは
オレンジ色の永遠のなかでは
不可能なようです

宇宙にひそむ黒い穴が
針葉樹の森の片隅で
忘れられているとしたら

そこをひとりの少年とひとりの少女が
ふたりの幼なじみが
あらためて
夢の場所と名づけたとしたら

はたして
ふたりの旅はおわってしまうのでしょうか

流星「だれか、僕を止めてくれないかしら」

白いバラ「だれか、私をどこかに連れて行ってはくれないかしら」

どこで?
どこへ?

時間を空間で仕切れないところ
空間を時間で分割できないところ

15
流れ星の星の道

月が重い時間です

16
嘘つきの三日月が 東の空に消え
幻灯機から照らされた星座たちが はかない夢を語りはじめる
そこには 風鈴がひとつ
『good night 神様』という曲を書こうとしたが やめて寝ることにします

ひとつ目夜空が 思い出話をはじめてる

romanorum

17
時が
ひいてゆきます
ゆっくりと
詩の海へ

パラッサ
パラッサ

子どもたちの夢の場所は
見つかったでしょうか

だれと旅をするか
決まったでしょうか

さて
出かけましょう

二度とない美しい夜空の裏側で
おひさまは
きっと元気です!

romanorum
↑TOP